研究テーマ

私が関心のある研究領域のキーワードについて、できるだけシンプルにわかりやすく解説していきます。

ダイバーシティとは?

〇〇のダイバーシティ、あなたなら、〇〇に何を入れますか?
性別、人種民族、年齢、学歴、性格なんていうものも、入るかもしれません。

皆さんの日常には、ダイバーシティ(多様性)があふれています。
たとえば、コンビニで働く人の人種は様々ですし、ファミレスの店員さんは時間帯によって様々な年齢層の人がいます。
大学のサークルには、様々な地方からきた学生さん、海外からの留学生がいます。
企業で勤めはじめると、学歴、雇用形態、経歴も様々に異なる人たちがいます。

ダイバーシティは数値化され、高・低があります。例えば、性別の場合なら、ダイバーシティが高い職場というのは、男女比が半々、ダイバーシティが低い職場というのは男:女=9:1とか、逆に1:9などの場合をいいます。

ダイバーシティの強みと弱み

こうした多様性は、強みにも、弱みにもなります。
ある場所に多様な人が集まることで、多様な意見やものの見方ができるようになります(Ancona & Caldwell, 1992; Jackson, May, & Whitney, 1995)。これが強みです。

一方で、人は似たもの同士でまとまる傾向があるので、いくつかのグループを作りがちです。そうすると、そのグループ同士で時に対立が起こったり、他のグループと情報共有がうまくいかなくなったりします。これが弱みです。

ダイバーシティが「諸刃の剣(もろはのつるぎ)」(Milliken & Martins, 1996)といわれるのは、このような理由からです。

ダイバーシティの弱み(マイナス面)がおこるのはなぜ?

グループ間対立が起こるのはなぜでしょうか。

人は、自分とそれ以外の人、という分類を、ほぼ自動的にしていると言われます。その分類のもとになるのが、性別や年齢、人種といった属性です。あの人は、女性、自分は男性。あの人は若い、自分は若くない。そして、自分と、女性や若年などのカテゴリーとをひもづけ、そこにアイデンティティを持つと言われます。(社会的アイデンティティ理論) (Tajfel & Turner, 1986)

そうすると、自分以外の集団を低く評価したり、自分のいる集団を「ひいき」しがちです(Tajfel et al., 1971)。なぜなら、それが自分の自尊心を高めることにつながるからです。 

それがエスカレートすると、一つの職場やクラスの中で、集団同士で対立が起こってしまう、ということが多くの研究で確認されています。
誰だって、そんな中で、気持ちよく仕事ができる…とは思えませんよね。

ダイバーシティの弱みをおさえ、強みをいかす

それでは、対立を起こさせずに、多様な意見やものの見方を集団の中で生み出し、取り入れていくにはどうしたら良いのでしょう?というのが、ダイバーシティ・マネジメントという学問領域で議論されていることです。
さらに考えを深めるには、ダイバーシティだけではなく、インクルージョンやフォールトラインという概念も理解することが役に立ちます。こちらはまた別のトピックでご説明します。

インクルージョンとは?

多様性の弱みをおさえ、強みを生かすために必要だといわれるのが、「インクルージョン」です。
インクルージョンは、様々に定義されています。ものすごく単純化していうと、

ある集団の中で、自分が「居心地が良い」と思える、「自分がここで生かされている」(Shore et al., 2011)、

「公平に扱われている」「重要なことを決めるときにきちんと自分が参加できている」(Nishii, 2013)
ことなどをインクルージョンと言います。(このほかにもさまざまな定義があります。)

こういう感覚を持てたとき、人は、この会社で働いていたい、ここでがんばりたい、と思えるのです。
例えば、会社としての大事なことがらが、男性ばかりの中で決められていたら、どうでしょう。
逆に、女性ばかりの中で男性が意見を言いづらかったら、どうでしょう。

皆さんのいる学校、クラブ活動、会社は、インクルーシブですか?

フォールトラインとは?

ダイバーシティは、性別・年齢など、一つの属性に着目して、多様性の度合いを数値化する、と説明しました。

ただ、人間はたった一つの属性だけでできているわけではありませんよね。

例えば、一人の人を詳しく見てみると

  1. 女性
  2. 4年制大卒
  3. 既婚
  4. 30代
  5. 営業職

など、まるで束のように複数の属性があります(Lau & Murnighan, 1998)。

こうした人が集まったとき、その集団の中で、自分と他のメンバーとが、どれくらい似ているのか(どれくらい強いサブグループができるのか)、そして、サブグループ同士はどれくらい「違っている」のかを、複数の属性から数値化したのが、「フォールトライン」です(Lau & Murnighan, 1998)。
複数属性をもとに計算する点で、ダイバーシティと違っています。

フォールトラインは、集団内の「分断」をとらえる理論として、近年注目されています。
ダイバーシティの弱みの部分をより正確に理解するには、このフォールトラインが適しています。